災害多発時代はどこでも起こりうるという認識
異常気象の頻発と地震活動の活発化など、災害多発時代への対応が求められている。 過去に何度も水没している地区なのに経済効率(交通の便や地価が安いなど)を求めて立地するなど、歴史的に災害に遭遇しやすい場所へ事業所の立地が進んだことも隠れた要因となっている。ところが近年の水害は過去に前例がない場所でも発生している。どこでも起こりうるという認識が必要。
例えば、うちの近所には大きな川も土石流を起こす谷もないが、ハザードマップの浸水は3メートルに達する。コンクリート化された都市部では雨水を浸透させることができず一気に水が水路に集まるが、その先の川の水位が高く排水できない場合は逆流してまちなかに溢れ出す(内水被害=都市型洪水)。
これまで大災害に遭遇していない地域でも起こりうることを再認識した上で、水害に関しては等高線(標高)で決まるので事前にハザードマップで確認しておきたい。
全国ハザードマップポータルサイト https://disaportal.gsi.go.jp/
豪雨の情報が連日のように流れてくる近年、あきらかに今世紀初頭とは異なる気象サイクルに入っている。その証拠がここ10年程度で激甚災害が急増している。平成30年7月に西日本を襲った豪雨では中小企業の被害額4,738億円に達している。これに南海・東南海トラフの大地震や原発事故などの人為的な要素も絡んでくる。
平成9年の河川法改正では、総合治水の考え方が提唱された。これは地域との連携による治水・利水・環境の総合的な河川整備を考えるもの。裏を返せば、すべての地域を守ることはできないということ、それをやり続けることは社会的、経済的的、生態系的に困難であるばかりか治水一辺倒の河川管理はかえって危険度を増加させているという反省がある。
被災すれば経営を続けるのが困難となる現実を直視(ただし危機を怖れない)
ある金属加工業では被災後給与が払えず全従業員を解雇せざるを得なかった。仮に巨額の借入を起こして事業を再開できても事業の縮小は避けられない。
運輸業では倉庫で預かっていた商品が水没した。火災保険へは加入していたものの水害は想定していないため取引先への補償が生じている。
いくつかのパターンを整理してみた(中小企業庁の資料から適宜加工)。
- 従業員の解雇→ 再度の人材確保が困難で事業縮小の怖れ
- 厳しい資金繰りの現状→ 水没した設備更新の借入が困難で廃業の危機
- 保険に未加入→ 商品や原材料の補償、損害賠償が困難
- 修理が必要→ 修理業者にも依頼が殺到して順番が回ってこず修復が長期化
- 取引先からの納品要請→ 対応できなければ取引先を変えられる怖れ
- 早期に復旧→ 見通しが立たなければ顧客離れ、従業員の離職(=技術の流出)の懸念
BCP(事業継続計画)は有効に機能していない
事業ができなくなる事態となれば死活問題だが、BCPの策定率は2割未満とされる。経営者も日々の業務に追われて「緊急性が低いが重要性の高い課題」への対応ができていない(その結果が忙殺されて利益の出ない現状という悪循環)。
実際にBCP策定に当たってみると、事業全体の現状の把握とその対策が難しい。ISOの運用にも似て書類作成と手順の実行が目的化(肥大化)して本来の目的とは無関係になりがち。紙の上の世界にとどまることで実際に機能しない道具となっている(災害時に厚さ5センチのマニュアルが機能するとは思えない)。
さらに、取引先や業務内容は変化するため、重要な業務も変わっていく。そのため不断の見直しと訓練が求められる。実際に策定されていても実態は不明というのが実情だろう。
「最初の一歩」に絞って対策を考える(実効性の担保)
そこで中小企業・小規模事業者ができうる対策に絞り、数枚の紙に落とし込むやり方を採ってみてはいかがだろうか。その代わり月曜朝は5分でいいから模擬訓練をやってみるとか、朝礼の際に社員にコメントを求めるなど数枚の紙の対策を徹底的に浸透させること。
具体的には、①自社における自然災害のリスクを認識すること(ハザードマップなど使えるツールがある)、②事業継続に必要な初動対応を考えること、③経営資源の回復の検討、④そのために必要な教育訓練を行うこと。
取り組みの手順
①目的
人々が行動するには意義を理解することとと使命を自覚し、なぜ取り組むのかを社内で共有すること。従業員と家族の安全確保、顧客への供給責任、雇用の維持は外せないだろう。
②リスク認識・被害想定
ハザードマップ等の活用で自社及び関係の深い取引先の影響を把握。主に地震と水害を想定すればいいだろう。備えとしては火災も必要だ。漏電対策はしっかりとやっておくべきだろう。
③責任分担
災害が起こったとき社長をトップに行うべきことを明文化。それぞれの役割で責任者を置いて会社に集まれる人を確認して何を行うかを決めておく。
④事前対策
災害が起こる前の準備が災害対策の決め手となる。まずは初動対応で避難と安否確認の人命を尊重する手順を決める。命が助かれば次の展開があるのだから。
誰かが不在となってもその人が担当している業務が滞らないようサブ担当のような代替要員を普段から訓練する。ローテーションを行うのもそのひとつ。
設備では、耐震化や床固定、事務機器の耐震化などが考えられる。液状化が想定される場所では矢板打ち込みなどの対策もあり得るだろうが、これについては費用が掛かること、変化への対応(設備の変更や移動など)が困難となる。災害対策を行えば行うほど平常時の運用コストが高くなるのでリスクとリターンの両面と経営戦略から設備や店舗の刷新、移動の可能性、時期を見て判断する。
情報のバックアップでは、日常のルーティンとして共有サーバーへの格納ルールやアクセス権限の設定を前提に、必要な更新データの差分バックアップを行う(自動で行うか、精通した人が手動で行うかは社内の事情による)。バックアップ先はHDDが基本(WD Redでいいだろう)。通電時の衝撃は厳禁なのはもちろん通電していないときも繊細な可動部を持つため持ち運びは控えたほうがいい。容量が1TB未満で済むなら、そして数年ごとに運用を更新するのであれば外付SSDも考えられる。いずれにしてもセキュリティの面で簡単に持ち出しができないようにしておくことと非常時に持ち出せるという矛盾点の解決が必要。ローカルにバックアップを行った上でクラウド上にデータを保管するのが現実的。その場合、費用面、データ保全の堅牢性、サービスの信頼性を勘案するとDropboxの一択だろう。
中小企業・小規模事業者の場合、お金をかけた抜本的な対策よりも商品の水没や建物の被災などに対しては損害保険で補う視点が現実的だろう。 保険額が見舞金程度では役に立たないのも事実で必要な補償と掛金を勘案して加入しておくといい。
忘れてはならないのは災害時に他社との協力体勢を結んでおくこと。代わりに供給してもらうことで顧客離れを防ぐねらいがある。といっても同一地域ならともに被災している可能性がある。やや離れた地域での同業者で相互に助け合う体制を持ちたい。
吉野川、那賀川、勝浦川、海部川などの河川を持つ徳島県内では人口密集地域はかつて洪水が流れた沖積平野。そこでは地震の際に液状化が起きやすい。どの災害時にどの社会インフラ(鉄道、橋、道路等)が影響を受けるかを見ておきたい。
地域全体が被災する激甚災害では部品や流通のつながり(サプライチェーン)が寸断されて自社だけが復旧しても営業開始の目処が立たない、災害対策は自社が中心だが視点は面的に見る必要がある。新たに立地するのなら岩盤など地面が固い場所を選ぶのは賢明だ(例えば勝浦川下流は典型的な氾濫原だが丈六地区などには岩盤地形がある)。
大切な訓練
紙をつくるのではなく実際に動かすことが目的だから訓練は欠かせない(被災時に分厚いマニュアルが機能するとは思えない)。訓練の目的は考えずに無意識でできるようにしておくことだから、毎週もしくは毎週1回の頻度で(3分でいい)行いたい。生命に危機が迫ったときは身の安全が最優先だから訓練なしにはおぼつかない。
具体的な訓練としていくつか例示すると、「ただいま震度7の地震が和歌山県沖で発生し20分で津波が押し寄せるとの連絡がありました」と状況を設定してどのように行動するか朝礼や小さなミーティングで答えてもらうなどは時間もコストもかからない。災害時はパニックになりやすいので次にやるべきこと(状況判断に基づく行動)を迅速に行えることが命を守ることにつながる。
事業所によっては数人のプロジェクトチームでサプライチェーンの寸断のパターン、可能性、その場合の被害状況の想定など机上で行うなど前提の洗い出しに基づく課題の設定も行っておきたい。それに基づいてシナリオを設定してロールプレイングを行うことで一人ひとりに自覚してもらう。いずれもお金はかからないですぐにできる。やるかやらないかだけだ。
顧客の立場で備える
災害で事業が止まりお金が入ってこないとしても貯え(預貯金)があれば当座はしのげる。問題は顧客から注文を受けている場合の対応だ。大規模災害等の不可抗力は免責事項となるのでまずは取引先に現状を報せること。注文された製品への対応について、納入の見通し、協力会社からの納品や代替品の確保、被災を免れた在庫での対応はもちろん、主要設備の現状と復旧の見通しをできれば当日、遅くても翌日ぐらいまでに伝えたい。WordPressで自社公式Webサイトを運用していれば当日中に広く情報を提供することも可能となる。
その際に伝えるべき内容(チェックリスト)を用意しておくのだが、WordPress上にページを用意して記載しておいて現況から文言を修正して非公開設定を切り替える運用も有力だろう。それに基づいて情報を収集して適切な手段もしくは伝えられる手段で伝えるのだ。そう考えると通信設備の電源の冗長化は必要と気付く(無停電電源装置)。それが稼働する半時間程度の合間にシステムを正常終了させるとともに必要な通信を行う。
大切なのは、顧客に納品が途切れると何が起こるか? それにはどの程度の猶予があるか日頃の営業活動を通じて把握して備えるマーケティング的な視点でもあるのだ。
被害を最小限に抑えた事例
宮城県内の産廃事業を行う会社(従業員90名)は2009年にBCPを策定し、2011年に東日本大震災に遭遇した。平時から机上の訓練や模擬演習を行っていたことで従業員の安否をすみやかに確認。従業員一人ひとりが重要業務、目標復旧時間を認識していたことで1週間後から通常営業を再開して収益を確保(完全な復旧には半年かかったらしいが)。プラントメーカーと災害協定を締結し他県の同業者と連携して顧客対応業務を継続できた。さらに自家発電装置や衛星電話、入手困難部材を事前に配備できたため、修理業者や顧客との連絡を行えた。通信手段の確保は災害時の初期対応で有効に機能した。
中小企業強靱化法による中小企業・小規模事業者への対応
中小企業・小規模事業者はマニュアルをつくるだけでは災害時に機能しないし、そもそも何から手を付けてどの程度行えば良いのかわからない。そこで災害に対する備えを高めるため「中小企業の事業活動の継続に資するための中小企業等経営強化法等の一部を改正する法律案」(中小企業強靱化法)が6月に交付され、7月中に施行される見通しとなっている。
そこで防災・減災設備の導入時の設備投資を促進するため、「事業継続力強化計画」の認定を受けた中小企業・小規模事業者に対して特別償却(20%)を講じるとしている。
対象となる設備は以下のとおり。
機械設備(100万円以上)…自家発電機、排水ポンプ等
器具備品(30万円以上)… 制震・免震ラック、衛星電話等
建物付属設備(60万円以上)…止水板、防水シャッター、排煙設備等
計画の骨子は以下の要素を含んでいる。
①事業継続力強化に取り組む必要性、目的の認識(←重要)
②発生時の被害発生の認識(被害の顕在化)
③必要な事前対策(防災、事業継続、訓練の実施)とその実施計画
④初動対応と行動プロセス(人命安全確保→ 被害状況把握→ 顧客への報告)
これまでの類似の措置と違って手続きの簡素化が図られており認定支援機関の確認書は不要。認定の利点は日本政策金融公庫の低利融資の対象となったり、ものづくり補助金等の加点要素もなっている。
BCPとの違いは、防災減災対策の最初の一歩を考えてもらうのが法の趣旨で事業継続能力を高めることが主眼。
災害が経営資源(ヒト、モノ、カネ、ノウハウ)に及ぼす影響に思いを巡らしてビジネスへの影響を考えることが大切。災害とは経営資源の急激な枯渇が生じる状態である。ならば中小企業・小規模事業者がやるべきことは経営資源の早期回復をめざすというよりは、経営資源の枯渇リスクへの対応と取引先からの需要変動の影響を抑えること。言い換えれば費用対効果の高い取り組みを見極めることが重要となっている(全方位で取り組まなくていい)。
参考情報
台風情報チェックリスト(徳島にお住まいの人向けに厳選したリンク集) http://soratoumi2.sblo.jp/article/184292558.html
メイド・イン・ジャパンの至福のラジオ http://soratoumi.sblo.jp/article/57853049.html
ICF-R351(レビュー) いつも持ち歩く携帯ラジオ。 もし、出張先や仕事で災害に巻き込まれたら… http://soratoumi.sblo.jp/article/57852107.html
関空の事故 北海道の大地震 自分の身を守れるか NHK総合テレビの音声をFMワイドで流せないか(災害対策の基本) ワンセグTV音声対応 おやすみタイマー搭載 乾電池対応 ホワイト XDR-56TV http://soratoumi.sblo.jp/article/184380360.html
西日本洪水 防災から減災―総合治水へ http://soratoumi2.sblo.jp/article/184375387.html