中小企業・小規模事業者が補助金でチラシやWebサイトを構築できる時代になった。小規模事業者持続化補助金や市町村が単独で販路拡大支援を行う支援措置もある。その際のヒントとなればと考える。
補助金をもらえることに満足
補助金に採択されて事業が実施できた。「成果はどうでしたか?」と尋ねると「良かった」と答える事業所がほとんど。
でも「良かった」というのはやりたくてできなかった美しいカラー印刷のチラシ、見映えのするWebサイト、看板の刷新等ができたという意味で、それが売上や顧客獲得につながったかどうかは気にされていないようだ。補助金を活用する際には1/2なり1/3なりの自己負担がある。自己負担に対しても費用対効果は得られているのだろうか?
思い描く成果はどこにでもある予定調和。そこにあなたの顔や顧客の思いが見えない
補助金で作ったチラシやWebはたいていはどこかで見たものに似ている。
ある美容室がオープンのチラシを打つことになった。そこでインターネット上で著作権フリーの外国人女性の画像が使えて見た目にきれいな(プロがつくったように見える)チラシを作成して配布を行った。そのチラシは全国チェーンの美容室が作ったような見映えだったが反応はほとんどないだろうと予測した。成果は上がらないと思うと告げた上で「事業所の勉強のため」そのまま実行してもらった。結果は1人の来店も、ひとりのお客さんからの問い合わせもなかった。予想したとおりだ。
店をオープンして客が来ない状況が続くと、このまま永遠にお客さんが現れないのではないかと不安に駆られる。そこで再度相談があった。ぼくは手描きチラシの作成を提案したところ、経営者は難色を示した。素人の店のように見られるのではと心配されているのだ(そのお気持ちもわかる)。
しかし集客がない状況で背に腹は代えられない。納得されて心を込めて手描きチラシをぼくの目の前でさらさらと数枚書き上げた。見ていると呆気にとられるほどみごとな出来映え(手描きチラシ作家になれるのではと思えた)。そのなかで彼女が気に入ったものを選んでチラシ配布を行ってもらった。
結果は〇〇人を超える新規顧客の獲得があった。今回はポスティングを自ら行ったので費用は印刷代〇千円程度(どうせ客が来ないので商圏内を歩く意味もあってやっていただいた)。
チラシは以下のとおりで、コピーを付せぐためぼかしを入れてあるが、雰囲気を掴んでいただきたい。
留意点
- 縦でも横でも構わない。
- 提供する価値(解決できること)を伝える。
- 顔(ここではイラスト)がアイキャッチとなって目がとまる。人の顔は必ず必要。
- 基本情報がわかりやすく掲載(店名、営業時間、所在地地図等)
- ご本人の名前を入れるとさらに効果的。
顧客獲得コストと得られる利益(限界利益)の関係
上記の関係をわかりやすく数字で見えるようにすると、
一人当たり利益(限界利益) > 顧客獲得コスト
この事例では(数字は仮定としているが現実感のあるものとしている)
- 顧客獲得コスト:チラシ作成2千円、配布費用0円(事業主による徒歩のポスティング)の合計2千円
- 獲得顧客数:14人
- 1人当たりの顧客獲得コスト:142円(!)。
- 平均客単価(仮定):5千円(パーマの割合によってはもっと上がる)
- 売上原価率(売上に対するシャンプーなどの消耗品費用の割合):10%(限界利益90%)
今回しか来店しなかった場合でも
1人当たり利益4,500円(5,000円×90%) > 顧客獲得コスト 142円
いまどきこんな夢のような倍率があり得るのも小規模事業者が地元商圏にていねいにアプローチしたため。これが補助金を10万円もらって販売促進を行い(自己負担を10万円とする)、新規顧客が4人であったら
顧客獲得コストは25千円(本来は5万円)、
獲得できる利益は5000円×90%×4人=18千円
→ ひとりの顧客獲得に25千円かかったが、そこから18千円の利益(売上総利益)が得られるのならこのチラシは採算性がない。
ただしリピータとなるお客さんがあるはずで、1年定着して年4回の来店頻度で単価5千円と仮定すると売上20千円、限界利益18千円が一人当たりの利益となるので2人リピーターになってもらえるのなら採算はあると判断できる。
利益の計算をどのぐらいの期間で見るかは業種によるが(生涯顧客という言葉があるが数字上は現実的な期間で設定する)、来店頻度の高い業種で半年程度、耐久消費財では一概に言えないが数年は可能だろう。美容室なら1年でいいだろう。
マーケティングはこの不等式が成り立つ限り、販売促進は有効である。有効であるということは販売促進を行うだけ利益が増えるということになる。
どんなレイアウトと内容にするか
- 今回は横長で使ったが縦長でも構わない。
- 左上に掴みの言葉。
- 画像(今回は事業主の顔のイラスト)は言葉の文字数やレイアウトによるが真ん中か右に置いてみよう。
- 真ん中から下段にかけては提供する価値や根拠、経営者の人となりが感じられる文言
- 左下は事業所名、所在地、連絡先などの基本情報、右下に地図
このパターンでいい。デザイナーが作成すると美しいが売れないことが多い。
多くの人が見慣れているパターンこそが売れるという事実を知らなければデザイン業務はできない。
なぜなら、人々は朝起きてから夜寝るまで情報の洪水のなかで生きている。新聞、ラジオ、インターネット、SNS、冊子、まちなかにあふれる視覚的聴覚的な情報…。そのなかで意思決定をしていくとき、簡潔でわかりやすい誘導が不可欠となってくる。見慣れたものは余分な判断(脳の動き)が少ない。その分、内容を注視できるのだ。
もう一例、デザイン例を挙げておく。
社名と地図は伏せておくが、個人経営の電気店である。まちの電気屋さんは大手家電量販店の進出で苦しいだろうと思われるかもしれない。ところが地方都市ではそうでない事業所を数多く見ている。
巷にあふれる家電製品のなかからどれを選べば良いかわからない。選ぶのに自信がないなどと選び疲れて購買に至らないのがいまの消費者。それに対して手を差し伸べるのは地域の家電販売店なのだ。
価格コムやアマゾンのレビューがあるではないかという人もいるだろう。インターネットのまとめサイト、アフィリエイトサイト(後述)もあるだろう。
でもそれらの情報は正しいと思われるだろうか? 自分にとって最適な判断が下せる情報だろうか?
答は否。売りたい商品や報酬をもらって依頼を受けた商材を売るための誘導でしかないから 。誰かの求めている価値や主観で書いた評価、素人の思い込みで綴られたレビュー、メーカーからこっそり依頼を受けて発言されたコンテンツだから。
信じて購入したものの自分に合わないことが購入後にわかっても後の祭り。
ところが地域の家電店はその人の暮らしや使いこなしを見て適切な候補を選定してくれる。それがなぜ良いかを説明したうえで、設置して実際に使えるまで操作してくれる。そこで不満を感じられたら地域で商売を続けていけなくなる。
価格はインターネットの最安には及ばないが、ムダな買い物をしないのと不良品を掴まされないなどの安心料を評価したら決して高いとは言えないだろう。そもそも個人の家電販売店にはいまや系列がなくほとんどのメーカーを扱っている。そのため良い機種を選んでおすすめすることができる。チェーンに加盟していれば販売価格も大手家電量販店と遜色ない(むしろ安いことさえ珍しくない。高い人件費などの固定費がかからないので)。
大手に叶わないのは「ちょっと行ってみよう」というような気軽な来店理由が訴求しにくいこと。実はさまざまなアンケート調査を独自に行ってみたところ、事業所が考える来店してもらえない理由として上げられている上位3項目は「買い物の楽しさ」「欲しい商品がない」「駐車場」であった。ところが同じ質問を住民にぶつけたところ、1位、2位はほぼ同じだが、3位に「買わずに出にくい」が挙げられている。実はこのことがまちの小売業の共通の課題となっている。
そこで来店動機をつくる必要があるが、価格訴求ではない。価格訴求とは当店が安売りしているときのみお越しください、というメッセージを発しているともいえる。お金と手間をかけてそんなお客さんを寄せても、もっと安いところがあればそちらへ行かれるだけ。
来店動機とは、その店がどんな思いで何を訴求するかの価値がわかっていること、その価値がわかりやすく訴求されていることで興味がある人は来店理由が生まれる(とりあえず行ってみることがある量販店と個人店ではそこが違う)。買いたいと思える商品や説明して欲しい商品が予めわかっていれば行きやすくなるだろう。
ここでぼくが書いた以下のブログをご覧いただこう。 http://soratoumi.sblo.jp/article/57853049.html
災害のときの通信手段としてラジオを確保しておく必要性とそのための論点を整理して具体的な機種を挙げている。
このコンテンツを活用してつくったのがこのチラシである(機種の選定と文言はぼくがつくっている)。
以下が実際に使われたポスティング用チラシ。
社長が自ら目の前のラジオを見てささっと描かれたイラスト、
なぜこのチラシがあるのか、問題提起と解決法が示されている。
ここまで読むのに数秒あれば足りる。
機種名と価格は示されていない。店に聞いて欲しいということである。
デザイン費用0円、印刷費は数千円で数百枚なら自社でするより地元の印刷会社で回してもらうほうが安い。
成果についてはラジオだけが売れたのではないことは想像がつくだろう。ふと見ると処分品のエアコンが目に付いた。モーター関係に定評がある国内一流メーカー製だがシーズン落ちなので安いとのこと。設置も安心して任せられるし価格が予算より安く付いた。お父さん、家に電話してその場で即決。
上記は想像のシナリオだが、実際に販売店さんにとって十分に満足の行く成果であったし地域住民にとっても有益な情報となったに違いない。いずれのお店もうちのご近所の方ばかりである。地元を知っていることは遠くから来た著名なマーケッターに数倍優るということでもある、と思っている。
それに対してこんなWebコンテンツは見たことがないだろうか?
まず問題提起(不安心理につけ込む)
「〇〇、あきらめていませんか?「忍び寄る影 日本人の〇〇人にひとりが…」
(腕組みしたり下をうつむく悩み顔のフリー素材の画像、不安を煽る統計資料が添えられることもある)
代替案が並べられるが有効でないと結ぶ
(客観性を装う)
解決可能な方策があることを主張
「ところが、実は…できるんです」「喜びのお便りが続々と…」
(疑心暗鬼の閲覧者の心理に沿うように)
根拠を述べる
「〇〇大学の専門家が10年の歳月をかけて…」「34%の被験者で…」
(権威付け、数字での根拠、体験者の声、マスコミが学術論文の部分引用など)
解決は簡単であることを述べる
「あなたがすることは、たった~だけ!」
製品の購入法へのサイト
(効果がなければ返金などのオプションを提示)
期間限定、読者限定、残り少数、希少性が高い、特別価格を訴求して背中を後押し
客観性を装いながら閲覧者の心の動きを先読みしつつ、特定の製品やサービスの購入に誘導するこのパターンはまとめサイト、アフィリエイトサイトの常套手段。
対象者を想定してその人たちが何を悩みどのようにしたいか、そのためにどんな言葉や提案に反応するかなどを手順に沿って落とし込んでいる。マーケティングのテクニックとしては知っておく知識だけれど、地域で信頼感を持って自分の顔と名前を張って(それがないと信用されないでしょう)80歳まで営業を行う人はこのようなアフィリエイト販売のような売り方をやってはいけない。
人は一度信頼を失うと取り戻すためには十倍百倍の努力ときっかけ、年月を必要となる。目先のアクセス数や利益が得られても長期的には「信頼されない人」として不利になることを忘れてはいけない。
以上は数千円で実現可能な効果的な販売促進だが、事業所の規模や業種を問わず基本は同じである。