この国は30年にも及ぶ経済成長がない状況=不況が続いています。それなのに物価が上がり続けています。そして所得に占める税金等の負担割合(国民負担率)は50%に近づいています。実に半分近くが租税公課に持って行かれているので、自由に使えるお金(可処分所得)は減り続けています。
ところが身近な製品や見ると、値上がりしているのは大手メーカーのものがほとんどです。自動車はどうでしょうか? 10年前には1百万円程度で買えたかもしれない軽自動車が2百万円? カローラクラスが3百万円? デジタルカメラの新製品はいまや20万円以上(5年前ならレンズ2本付で10万円がお釣りが来たはずです)。袋入りラーメンの日清のラ王は2年前の5袋入りがいまでは3袋で同じ価格…(ただしマルちゃんはそこまで値上げしていません)。例を挙げればキリがありません。
それでは中小企業・小規模事業者が販売する商品やサービスはどうでしょうか? 5年前、10年前と変わっていない、むしろ価格を安くしなければ売れなくなったという場合もあるでしょう。これは経済全体のパイが大きくなっていない、言い換えれば、購買力が低下しているので値段を上げると売れなくなるジレンマがあります。
悩ましいのは飲食店。700円のラーメンを800円に値上げするのは、燃料費や原材料、人件費の上昇を考えると不当な設定ではありませんが、確実に販売数量は減少します。とある人気のラーメン店では、座席予約の権利を500円で売り出すところが出てきました。都市部では人気店の半時間待ちはざらですが、お金を出すことで待たずに座れます。この場合、元の価格を800円とすると、そのラーメンに+500円で1300円の価値があると顧客が認めていることになります。
価格が上昇している(上げられる)のは、①価格決定の主導権がある大手メーカーのリーダー企業の製品(上げたいときに上げられる)、②中小企業・小規模事業者であっても顧客に価値を認められたもので限られた供給のもの、③生活に必須であって値上げを受け容れざるを得ない電気代やガソリン代などに限られるようです。
つまり、価値とは何かを考えることが求められています。その視点がなければ、付加価値を付けようが高級志向に転向しようがうまくいきません。座席予約付ラーメンの場合は、ラーメンのおいしさのほかに顧客の貴重な時間や待つ労力をお金で置き換える権利と言い換えることもできます。
価値と価格をめぐっては毎月一定額払いのサブスクリプション方式も普及してきました。人気の商品を分析しても、なぜ人気なのかわからない場面に出くわします。それでも何らかの理由付けをするなら、それは物語(ナラティブ)があるから、ということでしょう。このように価値と価格の多様な考え方が表れていることから、価値とは、特定の顧客が特定の場面や状況下において、需要と供給が合致する現象(しかもこれまでそこに訴求する事業者がいなかった)ではないかと私は考えています。
「安くて良いもの」のような漠然とした訴求は価値といえるかどうか(ただし低価格帯の商品を売り出して業績が回復した事例もあります)、またA社でうまくいったことがB社には当てはまらないことも多くあります。万人向きの処方箋はないのですが、自らの強みを価値に転換する場面や誘導は何かを模索することは変わらない原点でしょう。
追記
前にもご案内した11月22日のセミナーはこのような問題提起とそれに対する行動を考えたものです(ご参加を希望される方は会場キャパから残り数名となっています)。
https://shindan-tokushima.com/tokushimashi_itaku/