おだやかな経営―中小企業・小規模事業者の安心できる経営のために―

おだやかな経営とは

おだやかな経営とは

おだやかな経営とは、小さな事業所や組織が時代に翻弄されることなく、事業領域を的確に設定し絞りこんだ行動で高い生産性を持って経営を長く続けるための実践を提案しています。

  1. 洞察する。現場に密着するとともに時代や社会を洞察してあるべき姿を考え、なりたい未来を描く。
  2. ぶれない理念を持つ。それが経営の拠り所となる。
  3. 強みと顧客ニーズを適合させる。 潜在ニーズを掘り起こしながら 誰にどんな価値をどのように提供するかを考えて自分の土俵で勝負。
  4. 仮説と検証に基づいて経営資源を磨き上げる。試行(等身大のモデル実験)を行うことで強みを利益に結びつけられるよう経営資源を組み立てる。
  5. ムダなことはしない。解決すべき課題を1つか2つに絞りこむ。
  6. 自主性を活かし感性、感情を大切にして創造的な仕事ができる環境を調える。個人を活かし目的を共有して誰もができる簡素なマネジメントをめざす。

「おだやかな経営」とは、お金に支配される生き方ではなく、誰かの役に立っている実感のある仕事をすることでやりがいや満足を得て幸福な生き方に近づけるものです。そして結果的にお金も得られるという経営を提唱しています。

具体的には、子どもがいる世帯ではお金の必要なときに約15年~20年間は年収800万円(それ以上は不要でしょう)、60歳を超えて死ぬ直前まで愉しみながら適度の収入を得る循環的な生き方を取り込んだ経営です。そのための考え方を提案するものです。
おだやかな経営の6つの要素をさらに見ていきましょう。

①未来を洞察しながらあるべき姿を描く

ほんとうに大切なことは目には見えないと星の王子様は言います。人と社会の関わりのなかで、大きな感情のうねりが社会の底流にあり、それを感じることが出発点です。

少子高齢化、人口減少、生活困難な世帯の増加など将来に不安を抱く社会でこれまでの処方箋が通用するとは思えません。

現場に立ってものごとの背景や動機、関係性を洞察することからあるべき姿が見えてきて潜在ニーズが浮かび上がるように思われます。

まずは今起きていることから未来を洞察することから始める。羅針盤はなくてもあるべき姿を描いていくことです。

②ぶれない理念、世界観

生産性の高い事業所は流行を追いかけたりその時々のニーズに対応せず、いつも自分の土俵で勝負しているようです。

理念とは自らの行き先を照らすモノサシ(価値基準、行動規範)であり、世界観を伝えるメッセージでもあります。
理念が明確でぶれなければ経営資源(ヒト、モノ、カネ、ノウハウ)が分散しません。リスクに陥る怖れが少なくなり、強みに向かって進むだけという行動が単純になるので収益に結びつく可能性が高まります。

経営資源:ヒト、モノ、カネ、ノウハウに、時間とネットワークを加えた4+2で考えていきます。

理念に則って行動することで「簡素」で「わかりやすい」経営が実現します。多忙な社会でシンプルな打ち出しは心に残るものになるのではないでしょうか。

ぶれない理念の会社は、従業員に安心感と誇りを与え顧客から信頼されることでしょう。マーケティングではブランディングに貢献します。取引先、地域や家族にも慕われる存在となることで人材確保にもつながっていきます。

③コンセプトと事業領域(立ち位置)とその発信(Webマーケティング)

誰にどんな価値をどのように提供するかがコンセプトです。価値とは想定顧客が解決したいこと、満足できることなどです。

経営の機能でいえば企画開発を行い販売促進、販路開拓を行う流れです。安くて良い品をめざすのではなく、その価値を必要とする人に届けることができれば競合からも解放され、お客様と親しくなれるかもしれません。中小企業・小規模事業者は競合戦略という言葉から離れて、誰と付き合うか、そのためにどんな行動が必要かを深く考えたほうが良さそうです。

自社の価値を届ける相手をめざす市場と置き換えましょう。想定顧客の共感が得られる事業領域(市場規模)がどのぐらいあるでしょうか。そしてその市場へ深く浸透できるでしょうか。その市場は安定的に推移するでしょうか。
それは市場を見つけるというよりは、市場をつくる、顧客を育てる感覚に近いかもしれません。そんな市場を設定できれば、広告宣伝や割引の代わりに体験を通じて顧客との関係性を深めるやり方が有効となります。お金をかけずにファンをつくる手法であり、収益にもつながる要素です。

小さな事業所がマーケティング活動を行うとき、まずは地元への浸透は不可欠です。事業所が地域社会に受け容れられることが経営の大前提です。 地域への浸透についてはインターネットだけでない対面での方法やお金をかけない紙媒体でのコンテンツの作成などについても触れていきます。

市場(顧客)が地元にある(いる)とは限らないため、必要とする相手に出遭うために商圏の広域化、マッチングの機会をつくることが必要です。Webマーケティングはそのための有力な道具です。

④仮説と検証による試行で経営資源をブラッシュアップ

新たな取り組みには経営資源を動かす、もしくは革新的なビジネスモデルを構築する必要があるでしょう。新分野への取り組みには精通した人材やノウハウが必要、設備や新店舗、そのための資金が必要となります。

ところが中小企業・小規模事業者は社運をかけて変化に出ることは難しいもの。 経営資源を動かせば収益が減る怖れがあります。
大企業でも高い固定費を賄う売上が必要なので主力事業の変更は困難。それが自ら変革ができないジレンマとなります。しかし不採算部門を他に売却する、整理するという選択肢があります。
小さな事業所では余力があるとき(収益が上がっているとき)こそ節税を考えるのではなく未来への投資を行うことです。

そこで洞察に基づいて思考実験をやってみるのです。どのような条件設定をすれば、新たな事業がうまくいくかどうかの検証(判断)ができるかを考えます。テストマーケティングを行う際はなるべくお金をかけずに等身大の実験を行う方法を考えます。
いわば、仮説の構築と検証を行うことでリスクを避けながら新たな事業領域を探る行動です。慎重さと大胆さの両面が求められますから、試行から調整を行う必要があるのです。

変化の激しい時代、10年後のことは誰にもわかりません。けれど3年後は予想できる未来(予想しなければならない未来)といってもいいでしょう。
なぜなら、新たな取り組みの種を蒔いて成長して収穫するまでに3年程度はかかるからです。だからいまやるべきこととして3年後の自社の収益がどこから来るかを考えることです。

そのためには、顧客が自社にお金を払ってくれる強みは何かを把握しておく必要があります。強みとは経営資源の量(規模が大きい、知名度があるなど)とは限りません。SWOT分析は小さな事業所も使える道具ですが、強みを的確に分析している事業所は稀です(強みとは利益の源泉となっているコア能力のこと。自社の強みを的確に評価することが戦略のスタート)。

SWOT分析の参考例から強みと利益の関係を解説しましょう。
現役時代のイチロー選手の強みは何かと聴かれたら「高打率」「盗塁王」「ゴールデングラブ」などと答えてしまうようなもの。
これは結果として得られたものですね。もし強みを3つ挙げるとしたら「俊足」「強肩」「動体視力」でしょうか。
仮にそうだとしてもこれらの強みを持つ選手は大勢いるので、それを成果に結びつけるためには何らかのプロセス、行動があると気付きます。
イチロー選手の場合、それが体幹を軸に骨格と筋肉(筋膜)を意のままに制御する能力、例えばバットコントロールを磨くために独自のマシンを開発されたということでしょう(従来行われていたような筋力トレーニングには向かわなかった)。
どのようなときに成果が上がるかを分析すると、考えながら動作をするのではなく無意識のうちに最適化した動作(バッティング)を身に付けるトレーニングとそのためのルーティンがあったと理解しています。昔から頭でなく身体で覚えよというのは一理あるのですね。
ルーティンとは、平常心でいられるようにして変化する要素(バッティングの調整)に集中するための行動なのでしょう。

中小企業・小規模事業者の戦略とは、立ち位置を決めてそれに向けて経営資源を成長(再構築)していくことにほかなりません。
リスクもあるなかで軸足は踏み出さなければならない中小企業・小規模事業者は、内部の経営資源の磨き上げ、背伸びを前提に外注や連携による補完も視野に入れて思考実験とモデル試行で方向性を見定めていくことになるでしょう。

⑤課題の絞り込み(あれもこれもやらない)

中小企業・小規模事業者が解決すべき課題は1つか2つです。それ以上はやろうと思ってもできないし、やれても成果にはつながらないでしょう。

2つの課題とはこういう意味です。
課題1は、問題の本質と無関係に見える基本的な良いことで、できていないことを徹底的にやり切ることです。
例えば、会社の近くで近所の人に出会ったら笑顔であいさつを行う、などというものです。理屈ではなくやってみたら良い効果をもたらすことを、頭でっかちを乗り越えて凡事徹底で取り組むというもの。それができることで課題2が見えてくる、といえるのです。

課題2については、課題1ができたら取りかかれると考えます。課題の解決とは組織の一人ひとりがその背景や意義を理解したうえで血の通った行動を取る必要があるので課題1のような行動が定着することが前提と考えるのです。
それでは課題2とはどんなことでしょうか? 課題2はその解決が組織の多くの問題を解消する連鎖のきっかけとなる本質的な課題です。

そうはいっても、それを見つけるのが至難の業。人は問題(論点)をつくるよりも解決を考えがち。答を見つけるよりも解決すべきテーマは何かを見つめることが大切です。

ぴんとこない人のために例え話をしてみましょう。ある大都市で地下鉄の治安が良くないとします。殺人や暴行が横行する公共交通機関には乗る人はいません。それを取り締まるために警官を配備しようとしてもなり手がいないかもしれません。

そんなとき、落書きを消すなど軽犯罪を徹底的に取り締まるために人員を増強したとします。落書きが見当たらなくなると犯罪は著しく減少していく――。有名な割れ窓理論ですね。地下鉄が安全を取り戻すと観光客がやって来るようになる、地元客も安心して出歩いて結果としてお金を落とすなどの副産物が現れます。
まちの問題点は数え切れないぐらいあったはずですが、そのなかで地下鉄の安全性が確保されるとどんな変化が現れるか、そのためにはどんな行動をすれば良いのかを洞察するなかでまち全体の解決すべき論点が見えてきたということでしょう。

ところが熱心な経営者ほど課題の吟味を行うことなく、良いことをどんどん採り入れようとします。その結果、「社長がまた何か言い出した…」と社内が疲弊する場面が散見されます。そのような事業所の決算は悪くはないが良くもない平均的な成果しか得られていないようです。経営資源の分散、社員の士気低下が要因でしょう。

社内の問題点を書き出して、担当や役割を決めて解決に取り組み月次の合同会議などで進捗状況を報告しあう場面は見られる光景でしょう。

しかし求める成果は得られないとしたらどうでしょう。 取り組んでも解決につながらないことは課題ではないといえるのです。 解決できない課題を設定するのも無意味(経営資源の浪費)です。 ほとんどの課題は、組織の日常のなかで解決していくべき問題ともいえます。

経営者の大切な役割は、今解決すべきことは何かを考えること。つまり解決策よりも適切な設問(テーマ設定)ができるかどうかです (緊急性はないが重要なことを考えるのが経営者の役割) 。
これまで1,000社以上を訪問してわかったことは、事業所が解決したい課題ではなく別の課題を設定するのが適切な事例が多かったことを申し添えておきます。

⑥自主性を活かし共感を大切にする風土とマネジメント

課題の絞り込みができればムダなことをしなくてすみます。普通の人が普通に作業してミスが起こらない、疲れにくい、仕事が愉しいというのがマネジメントの原則であり、品質管理やヒューマンエラーを防ぐ本質もそこにあります。
課題の絞り込みができるということは価値観を共有する理念、世界観が明確でそれが組織に浸透している状態です。それができればマネジメントは簡素化できると考えます。

「おだやかな経営」では絞りこんだ行動で生産性を上げるという考えはマーケティング、マネジメントを問わず一貫しています。生産性が上がると創造的な作業が増えていきます

定型作業は人工知能に任せようというのが時代の流れ。ならば創造的な思考と行動を組織や個人がどのように引き出すかでしょう。人間の多様性を尊重することは良い企業風土の形成や人材の成長につながる要素です。

社長1人が考え社員がそれに従うだけの組織と、一人ひとりがさまざまな工夫を凝らして成果に結びつけようとする組織ではどちらが目的に近づくか明らかです。複雑な管理やルールを捨てて性善説に立つことを前提に社員が自主性を持って動けることが当たり前になってくるでしょう(人類20万年の社会行動や進化の経緯からもそれがうかがえます)。人材確保と育成が最大の課題となり得る時代、人が集まる事業展開ができれば成功といえるのではないでしょうか。

経営から幸福を考えたい

「おだやかな経営」はメソッドではなく概念、考え方を示したものですが、具体的な提案や解説はブログで行います。カテゴリーからお選びください。また、「おだやかな経営」と関係が深い健康経営やBCP、大きな組織での参考となるチーム力を高めること、おだやかな創業やまちづくりなども話題に含めています。

また、「おだやかな経営」は心身の健康を高めつつ経営を通じた幸福の実践論ともいえます。中小企業・小規模事業者の経営や地域のあるべき姿を啓発して実践していただくことがねらいです(特定の思想、政党、宗教等とは無関係です)。

そのため閲覧される方の負荷の少ないテキスト中心の記述としています。写真で癒されたい方は、四国のおだやかな暮らしを提案した「空と海のブログ2」をご覧ください。

みなさまのご健勝、生きがいが感じられる経営とそこから得られる成果を願っています。

平井 吉信  Copyright(c) おだやかな経営